2008年 10月 17日
「BOY A」 |
2007年/イギリス
監督/ジョン・クローリー
出演/アンドリュー・ガーフィールド
ピーター・ミュラン
ケイティ・リオンズ
ショーン・エヴァンス
この作品を観る前、自分の中で覚悟は決めていた。予告編を観る限り、HAPPYなものとは思えないし、主人公に感情移入しやすいタチの私にとっては辛い作品だろうと。それでも、この作品に惹かれたのは、この作品を観ることによって自分の中で問題提起をしたかったからかもしれない。自分で言うのも何だけれど、私は少年犯罪に対して非常に狭量である。年々凶悪化していく未成年の犯罪に対し、少年法なんてなくしてしまえばいいと思っているぐらいだから。・・・そう。この作品を観る前までは、私は主人公とは反対側の人間だったのだ。
少年時代に犯罪を犯し、ようやく保釈されることになった青年・エリックはジャック・バリッジと名を変え、ソーシャルワーカーであるテリーが見守る中、再出発を図る。職場では仲間ができ、ミシェルという恋人もできた。すべてが順風満帆かに見えたが、ジャックはミシェルにすべてを打ち明けたいと思うようになる。しかし、テリーは過去は決して口外してはならないとエリックに釘を刺し、エリックは葛藤し、苦しむ。だがジャックの過去は意外なところから漏れてしまう・・・というストーリー。
罪を犯した青年が生き直すことは許されるのだろうか。最大のテーマであり、永遠の苦悩でもある。今現在の彼がどんなに好青年でも、彼の過去が消えるわけではない。でも、その事件の背後関係を知りもしないで、彼を「悪魔」と断罪してしまうには、あまりにも酷なような気がした。この作品がジャックの目線で語られているから、というのもあるだろう。しかし、私は映画を観ながら一人の少年を思い出していたのだ。
以前住んでいた家の近くに一家四人が引っ越してきたことがあった。両親と小学生の女の子と男の子。男の子は小学校一年生で、友達ができないようだった。両親の仲は悪く、いつも大声で怒鳴りあっているのが我が家まで聞こえてきていた。時には男の子がぶたれたらしく、泣きじゃくっている声も聞こえてきた程だった。しばらくして一家は、200メートルほど離れたアパートに越していったので、私は彼らのことをすっかり忘れていた。しかしそれから10年後。思いがけないニュースが飛び込んできた。高校生になったあの少年が殺人を犯したというのだ。不良少年になった彼は、仲間と共に一人の少年を雑木林に連れて行き、殴り殺したというのだ。私は驚いたが、あの家庭環境ならそうなるかも、などと知ったような口をきいていた。田舎の噂はすぐに広まる。一家は間もなくどこかに引っ越した。
でも、私はこの映画を観ながら思っていたのだ。あの少年。殺人を犯してしまったあの少年は子供の頃から悪魔だったのだろうかと。小学生の頃、彼は我が家の犬をよく見に来ていた。犬が好きだったのだろう。孤独な毎日の中で、犬に安らぎを求めていたのかもしれない。警戒心の強い我が家の犬も、彼に対しては吠えなかった。犬好きということが、犬自身にもわかっていたのかもしれない。我が家の犬は黒くて大きく、大人の男の人でも避けて通るような迫力があった。しかし、少年は小さな手を門の隙間から差し入れ、しきりに犬の頭を撫でていた。あの少年の姿が、ふと思い出されたのである。
人は、様々な面を持つ。たとえ暴力的な面を持っていたとしても、優しく誠実な面も必ず持っている。彼らの良い面を信じて、更生を見守ることはできないだろうかと、私の心は大いに揺れ動いた。罪を憎んで人を憎まずという言葉がある。犯罪に手を染めた人に対して、私は寛容になれるだろうかと、何度も自分の心に問いかけた。来年から裁判員制度が始まるということもある。私はどこまで罪と人を冷静に見れるだろうかと。
ジャックを演じたのはアンドリュー・ガーフィールド。「大いなる陰謀」でロバート・レッドフォード演じる教授のクラスの学生を演じていた。やたらと生意気な口をきいていたあの役とはガラリと変わり、今回は純粋で繊細、傷つきやすい青年を素晴らしい演技で魅せてくれている。彼の醸し出す危うさ、脆さがこの作品を出来を大いに左右したと言っても過言ではあるまい。
それにしても、考えさせられた。自分の中でまだ答えは出せないのも事実。ただ、映画を観ながら、ジャックには幸せになってもらいたい、そう願っている自分がいたのもまた事実なのである。
(試写会 シネカノン試写室)
(c)THE WEINSTEIN COMPANY ,FILMFOUR CUBA PICTURES
11月、渋谷シネ・アミューズほか全国順次ロードショー
◆公式サイト
http://www.boy-a.jp/
監督/ジョン・クローリー
出演/アンドリュー・ガーフィールド
ピーター・ミュラン
ケイティ・リオンズ
ショーン・エヴァンス
この作品を観る前、自分の中で覚悟は決めていた。予告編を観る限り、HAPPYなものとは思えないし、主人公に感情移入しやすいタチの私にとっては辛い作品だろうと。それでも、この作品に惹かれたのは、この作品を観ることによって自分の中で問題提起をしたかったからかもしれない。自分で言うのも何だけれど、私は少年犯罪に対して非常に狭量である。年々凶悪化していく未成年の犯罪に対し、少年法なんてなくしてしまえばいいと思っているぐらいだから。・・・そう。この作品を観る前までは、私は主人公とは反対側の人間だったのだ。
少年時代に犯罪を犯し、ようやく保釈されることになった青年・エリックはジャック・バリッジと名を変え、ソーシャルワーカーであるテリーが見守る中、再出発を図る。職場では仲間ができ、ミシェルという恋人もできた。すべてが順風満帆かに見えたが、ジャックはミシェルにすべてを打ち明けたいと思うようになる。しかし、テリーは過去は決して口外してはならないとエリックに釘を刺し、エリックは葛藤し、苦しむ。だがジャックの過去は意外なところから漏れてしまう・・・というストーリー。
罪を犯した青年が生き直すことは許されるのだろうか。最大のテーマであり、永遠の苦悩でもある。今現在の彼がどんなに好青年でも、彼の過去が消えるわけではない。でも、その事件の背後関係を知りもしないで、彼を「悪魔」と断罪してしまうには、あまりにも酷なような気がした。この作品がジャックの目線で語られているから、というのもあるだろう。しかし、私は映画を観ながら一人の少年を思い出していたのだ。
以前住んでいた家の近くに一家四人が引っ越してきたことがあった。両親と小学生の女の子と男の子。男の子は小学校一年生で、友達ができないようだった。両親の仲は悪く、いつも大声で怒鳴りあっているのが我が家まで聞こえてきていた。時には男の子がぶたれたらしく、泣きじゃくっている声も聞こえてきた程だった。しばらくして一家は、200メートルほど離れたアパートに越していったので、私は彼らのことをすっかり忘れていた。しかしそれから10年後。思いがけないニュースが飛び込んできた。高校生になったあの少年が殺人を犯したというのだ。不良少年になった彼は、仲間と共に一人の少年を雑木林に連れて行き、殴り殺したというのだ。私は驚いたが、あの家庭環境ならそうなるかも、などと知ったような口をきいていた。田舎の噂はすぐに広まる。一家は間もなくどこかに引っ越した。
でも、私はこの映画を観ながら思っていたのだ。あの少年。殺人を犯してしまったあの少年は子供の頃から悪魔だったのだろうかと。小学生の頃、彼は我が家の犬をよく見に来ていた。犬が好きだったのだろう。孤独な毎日の中で、犬に安らぎを求めていたのかもしれない。警戒心の強い我が家の犬も、彼に対しては吠えなかった。犬好きということが、犬自身にもわかっていたのかもしれない。我が家の犬は黒くて大きく、大人の男の人でも避けて通るような迫力があった。しかし、少年は小さな手を門の隙間から差し入れ、しきりに犬の頭を撫でていた。あの少年の姿が、ふと思い出されたのである。
人は、様々な面を持つ。たとえ暴力的な面を持っていたとしても、優しく誠実な面も必ず持っている。彼らの良い面を信じて、更生を見守ることはできないだろうかと、私の心は大いに揺れ動いた。罪を憎んで人を憎まずという言葉がある。犯罪に手を染めた人に対して、私は寛容になれるだろうかと、何度も自分の心に問いかけた。来年から裁判員制度が始まるということもある。私はどこまで罪と人を冷静に見れるだろうかと。
ジャックを演じたのはアンドリュー・ガーフィールド。「大いなる陰謀」でロバート・レッドフォード演じる教授のクラスの学生を演じていた。やたらと生意気な口をきいていたあの役とはガラリと変わり、今回は純粋で繊細、傷つきやすい青年を素晴らしい演技で魅せてくれている。彼の醸し出す危うさ、脆さがこの作品を出来を大いに左右したと言っても過言ではあるまい。
それにしても、考えさせられた。自分の中でまだ答えは出せないのも事実。ただ、映画を観ながら、ジャックには幸せになってもらいたい、そう願っている自分がいたのもまた事実なのである。
(試写会 シネカノン試写室)
(c)THE WEINSTEIN COMPANY ,FILMFOUR CUBA PICTURES
11月、渋谷シネ・アミューズほか全国順次ロードショー
◆公式サイト
http://www.boy-a.jp/
by mayumi-68
| 2008-10-17 19:30
| ハ行